始業前の教室。窓際の席で大輝が机に肘をついたまま動かない。
さくら「おはよー!……って大輝、聞いてる?」
大輝「あ、聞いてる聞いてる」
聞いていない。
圭「木村、悪いんだけど購買のプリント配るの手伝ってくれる?あと三十枚」
さくら「はいはーい、任せて」
圭が配布物の束を数え直す。指先で紙の端をそろえる仕草。
結衣「大輝くん、なんか今日ぼーっとしてる」
大輝「別に。ただちょっと……いや何でもない」
結衣がそれ以上は聞かず、窓の外に目をやる。}
月曜朝の昇降口。傘立てに濡れた傘が三本並ぶ。下駄箱の扉が開く音が続く。
翔太「渡辺さん、おはよー。今日も眠そうだね」
美咲「……普通。いつも通り」
美咲は上履きの踵を指で押し込みながら答える。目は合わせない。
翔太「斎藤さんもおはよう。手芸部、朝練とかあるの」
美羽「……朝は、ないです」
美羽は靴箱の奥を見たまま答え、上履きに履き替える。
翔太「月曜日って靴紐結ぶの地味にめんどいよな」
美咲「紐じゃなくてマジックテープでしょ、翔太の」
翔太は自分の靴を見下ろし、黙る。三人はそれぞれの方向へ廊下を歩き出す。
購買の列。芽依、ノートを小脇に挟んだまま列の順番を一つ飛ばす。
七海「芽依、そこ田中くんの後ろだよ」
芽依「あ、ごめん」
列に戻る。焼きそばパンの棚を見て、手を止める。
美羽「…メロンパン、売り切れてた」
七海「早く来ないとね、月曜は特に」
悠斗、会計を済ませて先に廊下側へ寄る。芽依のほうを一瞬見て、また窓の外に目を戻す。
芽依「(小声で)告っちゃいなよ、って…なんでそんなの浮かぶんだろ」
七海「何か言った?」
芽依「ううん、独り言」
昼休み、窓際の机に陽が当たっている。山田悠が文庫本を開いて座り、清水結衣が隣の机に鞄を置く。
翔太「結衣、今日部活休み?なんか荷物少なくね」
結衣「あ、うん。月曜は自主練だから道具持ってこなくていいの」
翔太が窓枠に肘をつく。悠はページをめくる手を止めない。
翔太「山田もなんか読んでんな。それ面白いの」
悠「……普通」
翔太が聞き返す間もなく、結衣が窓の外を指して話しかける。
結衣「あ、雲、なんか変な形。翔太くん見て」
翔太「どこ。……あー、たしかに変」
悠は顔を上げないまま、ページの端を指でなぞる。
放課後、河川敷の道。土手に菜の花がまばらに散っている。悠と蓮が少し間を空けて歩き、美咲と美羽が後ろから合流する形になった。
蓮「眠い」
誰も反応しない。蓮は欄干に手をかけて、あくびをする。
美羽「今日の数学、小テストあったよね」
悠「あった」
声が小さく、美羽が「え?」と聞き返す。悠はもう一度は言わず、川面に目を戻す。
美咲「小テスト、何点だった」
誰も答えない。自転車が横を通り過ぎ、ベルが鳴る。
蓮「渡辺さんち、どっち」
美咲「橋渡ってこっち」
体育館。サーブ練習の列。ボールの弾む音が等間隔に続く
七海「清水、順番。ほら」
結衣、一拍遅れてトスを見上げる。ボールが足元に落ちる
結衣「あ、ごめん」
結衣、拾い直して列の後ろに並び直す
七海「大丈夫? さっきから上の空じゃない」
結衣「平気。ちょっと寝不足で」
七海、結衣の顔を数秒見てから、それ以上は聞かずにホイッスルを鳴らす
七海「次、清水の番。今度はちゃんと見てね」
結衣、頷いてサーブの構えに入る。ボールは今度もネットにかかる
大輝、既読をつけたまま10分黙ってから打ち始める
大輝「明日の朝練、走り込み増えるってマジ?」
翔太「マジ。顧問が急にキレた。誰かサボったろ」
大輝「俺じゃねえよ」
既読がついたまま返信が止まる。大輝、打っては消すを繰り返す
大輝「なあ、芽依のことなんだけど」
翔太「え、なんの話」
翔太「眠くなってきたわ、また明日な」
未読が1件つき、既読になるまで四十二分かかる。
美羽「おはよう。昨日の刺繍の続き、糸の色間違えてて全部ほどいた」
蓮「それは事故」
美羽「うん。佐々木くんまだ起きてる時間帯だった?」
蓮「起きてるというか寝てない」
美羽、スタンプを選びかけてやめる。文字を打ち直す。
美羽「体調崩さないでね」
蓮の既読がついたまま、しばらく返信が来ない。
月曜の朝、圭はプリント配布の段取りを進め、大輝は頭の中の声に気を取られたまま生返事を続けた。昇降口では三人が短く言葉を交わし、それぞれの教室へ散っていった。
昼休みの購買の列で、芽依はどこか上の空だった。七海がそれに軽く気づいただけの、いつもの月曜だった。窓際では翔太と結衣が雑談し、悠は文庫本から一言返しただけで会話の輪には加わらなかった。
放課後、四人は河川敷を並んで帰ったが、小テストの話は続かないまま、橋の手前で別れた。サーブ練習中、上の空の結衣を七海が気にかけたが、結衣ははぐらかし、練習はいつも通り続いた。夜、朝練の連絡から芽依の話に触れかけた大輝を翔太が眠気を理由に切り上げ、糸をほどいた話から蓮の寝不足に触れた美羽の気遣いも間が空いたまま流れた。大輝と芽依はそれぞれ相手宛てのDMを書き、送らずに消した。
夜が明けたばかり。教室にはまだ誰もいない。
きょうは 08:10 の登校から。きのう(day 5)のはなしを読み返すのもいい。