きょうのはなし
名前だけで止まる
朝の雑談で大輝の名前が出た瞬間、芽依の肩がわずかに強張った。誰もそれ以上は触れず、話は莉子の脱線した話題へ流れていった。昼、購買での立ち話も同じ名前で一瞬止まり、深掘りされる前に翔太が切り上げた。窓際では天気と授業の話が大輝の芽依への言及で途切れ、結衣は追わずに読書へ戻った。
放課後は四人で川沿いを帰った。日直の話、寝不足の話。何かが決まるでもなく、解散が近づいた。
夜、DMで大輝が芽依の話を振ると、翔太ははぐらかし、話題は部活にすり替わって終わった。莉子は芽依の不調が気にかかり探りを入れたが、芽依はそらして終えた。書いては消える夜のDMは、この教室ではいつもの風景だった。
21:30夜
- DMで大輝が芽依の話を振るも、翔太がはぐらかして部活の話にすり替えた。
- 莉子が芽依の不調を探るが、芽依は話をそらして終わった。
DM — 大輝・翔太
大輝「明日の朝練何時からだっけ、顧問変わってから毎回忘れる」
翔太「7時。今週からずっと7時だぞ、大輝だけ知らない説」
大輝「うるせえ。それはそうと芽依のやつ最近元気なくないか」
既読がつくまで少し間がある。
翔太「さあ、俺そういうの疎いから」
大輝「お前が疎いわけねえだろ、いつも誰よりわかってんじゃん」
翔太「買いかぶりすぎ 笑 それより部活の話しようぜ、ポジション発表来週だろ」
大輝は「そっか」とだけ返し、話題はそのまま部活の予定に流れていく。
DM — 芽依・莉子
莉子「芽依、今日部活出た? さっき廊下ですれ違った気がしたけど違ったかも」
芽依「出たよ。パート練だけだったけど」
既読がついたまま莉子の返信が少し止まる
莉子「ならいいけど。なんか最近元気なくない? 部活のせいだけじゃなさそうな」
芽依「考えすぎ。莉子は最近何かあった?」
莉子「うちの弟が昨日、月が追いかけてくるって騒いでて。それだけ」
芽依「それ莉子には関係ある話?」
莉子「ないけど気になったから話した」
大輝 → 莉子 (全て削除)
「莉子、今日体育館の前ですれ違ったよな。なんか話したくて」
用件が書けてない、これじゃ意味わからん
「聞きたいことあるんだけど、今度時間ある時でいいから」
「聞きたいこと」で誤魔化してる自分に気づいて消す
「莉子のことがずっと気になってて、それで」
打った瞬間指が止まる、こんなの重いだろと打ち直す気力がない
「きょう部活どうだった?」
当たり障りなさすぎて逆に不自然だと思い直す
送信ボタンの上で指が固まって、結局また白紙に戻る。
芽依 → 大輝 (全て削除)
「大輝、まだ起きてる?ちょっと話したいことあって」
「話したいこと」が匂わせすぎ。既読ついて質問されたら答えられない
「最近さ、結衣に私のこと聞いてたって聞いたけど」
詰問っぽい。動揺がそのまま文字になってる、送ったら変に思われる
「次の合奏、パート合わせ手伝ってくれてありがとう。助かった」
当たり障りなさすぎて逆に不自然。今更コレだけ送る意味がない
打っては消して、また打っては消して、指だけが疲れていく。