3年C組

2026-04-12 — day 5
きょうのはなし
名前だけで止まる

朝の雑談で大輝の名前が出た瞬間、芽依の肩がわずかに強張った。誰もそれ以上は触れず、話は莉子の脱線した話題へ流れていった。昼、購買での立ち話も同じ名前で一瞬止まり、深掘りされる前に翔太が切り上げた。窓際では天気と授業の話が大輝の芽依への言及で途切れ、結衣は追わずに読書へ戻った。

放課後は四人で川沿いを帰った。日直の話、寝不足の話。何かが決まるでもなく、解散が近づいた。

夜、DMで大輝が芽依の話を振ると、翔太ははぐらかし、話題は部活にすり替わって終わった。莉子は芽依の不調が気にかかり探りを入れたが、芽依はそらして終えた。書いては消える夜のDMは、この教室ではいつもの風景だった。

08:10登校
大輝
靴箱を開けたまま突っ立つ
悠斗
(また見てしまった)
翔太
上履きに履き替える
イヤホンを片方だけ外す
階段を二段飛ばし
健太
鞄の肩紐を締め直す
昇降口で欠伸を一つ
窓の外を一瞥して過ぎる
大地
大股で追い越していく
莉子
話題を変えて笑ってみせる
芽依
(まだ、こわばったまま)
七海
下駄箱の名札を確かめる
美咲
傘立てに傘を差し込む
さくら
眠そうに前髪を直す
陽菜
スマホを鞄にしまい込む
結衣
教科書の数を数え直す
愛梨
気まずさだけ顔に残る
美羽
靴紐をきつく結び直す
教室(朝) — 愛梨・芽依・莉子(見ていた: 大輝・悠斗)

始業前の教室。莉子、窓際の席で文庫本のページの角を折る。

愛梨「芽依、今日眠そうじゃん」

芽依「昨日、朝練が長引いて」

莉子、本から顔を上げて芽依を見る。

莉子「部活、最近きつい?」

芽依「別に、いつも通り」

愛梨、何か言いかけて言葉を変える。

愛梨「そういえば大輝くん、今日日直だっけ」

芽依の肩がわずかに強張る。二人とも気づかない振りをする。

莉子「そういえば、今日の月って昼間も見えるらしいですよ」

12:35昼休み
大輝
パンの袋、まだ結ばず
悠斗
窓の外、目だけ動く
翔太
レシート、財布にねじ込む
消しゴムのカス、指で丸める
弁当箱の蓋、爪で弾く
健太
牛乳パック、潰し中
漫画のページ、指で押さえる
箸、まだ割ってない
大地
友達と、声出して笑う
莉子
話題、また逸れていく
芽依
箸、止まったまま
七海
スマホ、下向きに置く
美咲
窓際、伸びをしている
さくら
椅子、斜めに座る
陽菜
ノート、閉じたまま
結衣
文庫本、開いたまま止まる
愛梨
遠くから、二人を見ている
美羽
ストロー、袋のまま
教室・購買 — 愛梨・翔太(見ていた: 悠斗)

購買の列、愛梨と翔太が前後に並ぶ。焼きそばパンの棚はもう半分空

翔太「やば、メロンパン残り2個。井上、勝負な」

愛梨「あたし争わないタイプ。あんぱんでいいし」

翔太、メロンパンを掴んでレジへ。愛梨は棚を眺めたまま動かない

愛梨「ねえ小林、大輝くんと今日部活?」

翔太、財布を出す手が一瞬止まる

翔太「……月水金だよ、いつも通り。なんで急に」

愛梨「いや別に。二人よく一緒にいるなーって」

翔太、笑って誤魔化し、釣り銭を受け取る

翔太「仲いいだけっしょ。んじゃ先教室戻るわ」

教室の窓際 — 結衣・大輝(見ていた: 悠斗・芽依・愛梨)

結衣、窓際の席で文庫本を閉じる。大輝が通りかかって足を止める。

大輝「清水、次って体育館だっけ」

結衣「うん、渡り廊下からでいいと思う」

大輝、窓を開けて外を見る。

大輝「もう暑いな、これ」

結衣「まだ4月なのにね」

大輝、視線が一瞬、教室の奥の席のほうへ動く。

大輝「なあ、清水から見て芽依って最近どう見える」

結衣「…わかんない。あんまり話したことないから」

大輝、それだけ言って窓枠に肘をつく。結衣は文庫本の表紙をもう一度見て、また開く。

16:00放課後
大輝
芽依の下駄箱、見ずに通る
悠斗
何も言わず、鍵を回す
翔太
話を切り上げ、鞄を掴む
河川敷、欠伸をひとつ
昇降口で靴を履き替える
健太
水筒を鞄にしまう
廊下の窓、鍵を確認
土手道、生欠伸を噛み殺す
大地
口笛混じりに階段を下りる
莉子
(また逸れちゃった)と苦笑
芽依
俯いたまま、昇降口を出る
七海
音楽プレイヤーのボタンを押す
美咲
河川敷、寝不足の話に頷く
さくら
文庫本のページを折る
陽菜
スマホの充電残量を見る
結衣
文庫に栞を挟み、鞄へ
愛梨
(やっぱり)と口元緩む
美羽
河川敷、鞄を提げ直す
帰り道(川沿い) — 悠・蓮・美咲・美羽

土手の道。四人がばらばらの間隔で歩く。ランドセルではなく通学バッグ、四月でまだ新しい肩紐。

「今日の日直、誰だっけ」

美羽「……わたしは火曜であってる、今日は違うと思う」

美咲がスマホをポケットにしまう。画面が暗くなる直前、通知が一件見えている。

「川、増えてる」

誰も反応しない。悠はそれ以上続けず、川面に目を戻す。

「昨日3時まで起きてた」

美羽「体、大丈夫なの」

「別に」

美咲が土手の階段で立ち止まり靴紐を結び直す。残りの三人はそのまま歩き、間が少し開く。

21:30
大輝
画面の入力欄、また空に
悠斗
毛布にくるまり天井を見る
翔太
既読、返信は打たない
布団の中でスマホを閉じる
机で漫画を読んでいる
健太
ヘッドホンで音楽を聴く
参考書のページをめくる
洗濯物を畳んでいる
大地
筋トレの動画を見ている
莉子
既読のままの画面を見る
芽依
(打っては消す)
七海
スケッチブックに線を引く
美咲
冷蔵庫を覗いて閉じる
さくら
台所で洗い物をしている
陽菜
犬の散歩から戻ってくる
結衣
栞を挟んで本を閉じる
愛梨
(やっぱり、そうだ)
美羽
日記に一言だけ書く
DM — 大輝・翔太

大輝「明日の朝練何時からだっけ、顧問変わってから毎回忘れる」

翔太「7時。今週からずっと7時だぞ、大輝だけ知らない説」

大輝「うるせえ。それはそうと芽依のやつ最近元気なくないか」

既読がつくまで少し間がある。

翔太「さあ、俺そういうの疎いから」

大輝「お前が疎いわけねえだろ、いつも誰よりわかってんじゃん」

翔太「買いかぶりすぎ 笑 それより部活の話しようぜ、ポジション発表来週だろ」

大輝は「そっか」とだけ返し、話題はそのまま部活の予定に流れていく。

DM — 芽依・莉子

莉子「芽依、今日部活出た? さっき廊下ですれ違った気がしたけど違ったかも」

芽依「出たよ。パート練だけだったけど」

既読がついたまま莉子の返信が少し止まる

莉子「ならいいけど。なんか最近元気なくない? 部活のせいだけじゃなさそうな」

芽依「考えすぎ。莉子は最近何かあった?」

莉子「うちの弟が昨日、月が追いかけてくるって騒いでて。それだけ」

芽依「それ莉子には関係ある話?」

莉子「ないけど気になったから話した」

00:40深夜
大輝
送信ボタンの上で指が止まる
悠斗
(眠っている)
翔太
既読のまま返事を打てずにいる
カーテンの隙間を見ている
(眠っている)
健太
(眠っている)
(眠っている)
スマホの充電残量を眺める
大地
(眠っている)
莉子
(眠っている)
芽依
布団の中でスマホだけが白い
七海
(眠っている)
美咲
扇風機の音だけを聞いている
さくら
(眠っている)
陽菜
(眠っている)
結衣
(眠っている)
愛梨
(眠っている)
美羽
(眠っている)

夜の机の中

大輝 → 莉子 (全て削除)
「莉子、今日体育館の前ですれ違ったよな。なんか話したくて」
用件が書けてない、これじゃ意味わからん
「聞きたいことあるんだけど、今度時間ある時でいいから」
「聞きたいこと」で誤魔化してる自分に気づいて消す
「莉子のことがずっと気になってて、それで」
打った瞬間指が止まる、こんなの重いだろと打ち直す気力がない
「きょう部活どうだった?」
当たり障りなさすぎて逆に不自然だと思い直す

送信ボタンの上で指が固まって、結局また白紙に戻る。

芽依 → 大輝 (全て削除)
「大輝、まだ起きてる?ちょっと話したいことあって」
「話したいこと」が匂わせすぎ。既読ついて質問されたら答えられない
「最近さ、結衣に私のこと聞いてたって聞いたけど」
詰問っぽい。動揺がそのまま文字になってる、送ったら変に思われる
「次の合奏、パート合わせ手伝ってくれてありがとう。助かった」
当たり障りなさすぎて逆に不自然。今更コレだけ送る意味がない
「」
入力欄を開いたまま、結局何も打たずに閉じた

打っては消して、また打っては消して、指だけが疲れていく。

日記

「大輝の話、途中でやめた。パンの列で名前出したら翔太の手が止まった。それだけ。」
— 愛梨の日記
「名前が出た瞬間、体が固まった。気づかれてないといいけど。」
— 芽依の日記
「芽依が固まるのを見た。翔太も止まった。大輝が清水(結衣)に何か聞いてた。それだけ見た。」
— 悠斗の日記
「芽依の元気がないのが気になって、弟の話までしてしまった。夜に聞いてみたけど、はぐらかされた。」
— 莉子の日記
「財布持つ手が止まった。芽依のこと聞かれて、また笑ってごまかした。」
— 翔太の日記
「窓際の話、大輝が芽依の名前を出した瞬間に途切れた。深追いせず本に戻った。」
— 結衣の日記
「芽依の話を振ったら翔太に流された。夜のDMでも同じ。部活の話にすり替わって終わり。」
— 大輝の日記
「川が増えてると言ったのに、誰も見なかった。帰り道、結局何も決まらなかった。」
— 悠の日記
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