3年C組

2026-04-11 — day 4
きょうのはなし
噛み合わない土曜

朝の教室、大地が頭を離れない月の話をする。莉子は寝不足のまま、その話を軽く受け流した。昇降口では陸とさくらが挨拶を交わし、声の大きさのことに少し触れただけで別れた。

購買前での翔太と芽依の立ち話は、互いに上の空のまま終わる。窓際では圭が日誌の数を数え、さくらが手伝いを申し出た。その隣で悠が何かをつぶやいたが、聞き返されて、そのまま消えた。

下校時、北坂で球技大会の組み合わせの話が出る。さくらの大きな声と、上の空の莉子とが絡み合っただけで、坂は下りきってしまった。夜、莉子の何気ない話題に芽依は言葉少なに応じ、核心には触れないまま会話は途切れた。今夜も、書かれて消えたDMがいくつかあった。

08:10登校
大輝
上履きに履き替え、欠伸ひとつ
悠斗
靴紐を結び直している
翔太
上履きの踵を潰したまま歩く
廊下を大股で通り過ぎる
さくらと別れ、階段を上る
健太
机の位置を無言で直す
窓の外を一瞥して着席
リュックを肩にかけ直す
大地
(月の話、まだ頭に)
莉子
欠伸を堪えて席に着く
芽依
ロッカーの前で動かない
七海
友達と小声で話している
美咲
鏡を覗いて前髪を直す
さくら
陸と挨拶を交わした
陽菜
俯いて廊下を歩く
結衣
ノートを小脇に抱えている
愛梨
友人と笑い合っている
美羽
窓際の席に静かに座る
教室(朝) — 大地・莉子(見ていた: 大輝・悠斗・愛梨)

窓際、大地が机に頬杖をついている。廊下の列に高橋がいるのを目で追っている

莉子「おはようございます。……何見てるんですか」

大地、廊下を指す。高橋はまだ列の中ほど

大地「高橋、あの列、動かないな」

莉子「ああ、購買ですかね。並ぶの好きじゃないのに偉い」

莉子、あくびをかみ殺す。目の下がわずかに暗い

大地「莉子、月、見た?」

莉子「は。今朝ですか。見てないですけど、何ですか急に」

大地、首をひねって窓の外を見る。まだ明るい昼前の空しかない

大地「いや……なんとなく気になってる。理由は自分でもよく分からん」

昇降口 — 陸・さくら(見ていた: 悠斗・愛梨)

下駄箱の前、陸が上履きに履き替えている。

「おはよう」

さくら「おはよう!今日も寒いね」

声が昇降口に反響し、近くにいた生徒が一瞬振り返る。

「さくら、声でかいな」

さくらの表情がわずかに沈み、すぐ笑みに戻る。

さくら「褒め言葉として受け取っとく」

「うん、そういう意味」

陸、靴をロッカーに押し込み、そのまま昇降口を出ていく。

さくら「じゃあね」

12:35昼休み
大輝
弁当の蓋を指で弾く
悠斗
窓の外を眺め欠伸ひとつ
翔太
購買のレシートを畳む
つぶやきかけて、やめた
上履きの紐を結び直す
健太
牛乳パックを潰している
日誌の束を数え直す
漫画のページをめくる
大地
(まだ月が頭にある)
莉子
欠伸を噛み殺している
芽依
パンを一口、あとは沈黙
七海
友達の話に相槌だけ
美咲
スマホで時間を確認
さくら
日誌を圭に手渡す
陽菜
イヤホンで音楽を聴く
結衣
ノートの端を折っている
愛梨
窓際でひとりストレッチ
美羽
机に頬杖、外を見てる
教室・購買 — 翔太・芽依(見ていた: 悠斗・愛梨)

購買の列。翔太が焼きそばパンを二個抱えて芽依の後ろに並ぶ

翔太「高橋、今日も部活?水曜って基礎合奏だっけ」

芽依「うん。基礎合奏」

芽依は財布を開けたまま列の進みを見ていない

翔太「元気ないな。パン、あと一個しかないやつ譲ろうか」

芽依「いい。お腹すいてない」

翔太が肩をすくめてレジに進む。芽依は答えずカレーパンを一つだけ取る

翔太「じゃあまた教室で」

芽依は小さく頷いただけで、翔太が離れてから初めて財布を閉じる

教室の窓際 — 圭・さくら・悠(見ていた: 悠斗・愛梨)

窓際の机に、未回収の学級日誌が数冊積まれている。圭がそれを数え直している。

「日誌、まだ二列分回収できてない」

廊下から木村さくらが大声で入ってくる。声量はいつも通りに戻っている。

さくら「圭ー、おはよ。また日誌係やってるの?」

圭、プリントから顔を上げず頷く。口の端だけわずかに緩む。

さくら「手伝おうか。声出すの得意だし、名前呼んで回収すれば早いよ」

山田悠が窓際で外を見たまま、小さく口を開く。

「昨日、教室でミサキの声、した気がする」

さくら「え、何?」

悠、首を横に振って窓の外に視線を戻す。さくらはもう日誌の束に手を伸ばしている。

16:00放課後
大輝
靴紐を結び直している
悠斗
自転車の鍵を探している
翔太
組み合わせ表を指でなぞる
言いかけた言葉を飲み込む
トラックを黙々と走る
健太
問題集にペンを走らせる
日誌の数をまた数え直す
イヤホンで音楽を聴いている
大地
空を見上げて立ち止まる
莉子
寝不足であくびをかみ殺す
芽依
机に突っ伏している
七海
本のページをめくっている
美咲
鏡を覗き前髪を直す
さくら
まだ笑い声の余韻が残る
陽菜
水槽の水温計を覗き込む
結衣
日記帳にペンを構えている
愛梨
エプロン姿でパンを並べる
美羽
窓の外をぼんやり眺める
帰り道(北坂) — 翔太・莉子・さくら

北坂の下り、三人の影が斜めに伸びる。さくらの鞄の缶バッジが歩くたびに鳴る

さくら「今日の球技大会の组み合わせ表、見た? うちのクラス初戦から陸上部と当たるんだけど」

翔太「うわ、それ詰んでない? 俺、体育の出席点で稼ぐタイプなんだけど」

莉子は少し遅れて歩き、電柱の貼り紙を読んでいる。反応が遅れる

莉子「……え、なんの話でしたっけ」

さくら「莉子、話聞いてなさすぎ! ここ坂道、息切れとかしてないよね?」

声が響いて、通りかかった自転車の主婦が一瞬振り返る

翔太「いや普通に聞こえてるから、木村の声が坂の下まで届いてるだけ」

さくらは口を尖らせるが、すぐに笑いに変える。莉子は貼り紙から目を離さないまま歩調だけ合わせる

莉子「貼り紙、迷い猫のやつでした。もう見つかったって上から紙貼ってある」

21:30
大輝
またDMの下書きを消す
悠斗
窓の外、特に見ていない
翔太
スマホで組合せ表を確認
つぶやきを打っては消す
枕に肘、天井を見ている
健太
靴下だけ脱いで転がる
回収した日誌を並べ直す
漫画を読み返している
大地
窓から月を見上げている
莉子
既読は付けず、置いた
芽依
DMを4回書いて全部消した
七海
毛布にくるまり動かない
美咲
参考書を開いたまま止まる
さくら
大声を出した日を反芻
陽菜
電気を消して目を開けている
結衣
日記帳を開いて閉じた
愛梨
音楽を消して静かにする
美羽
枕元のスマホを見ない
DM — 芽依・莉子

莉子「芽依せんぱーい、聞いてます? 今日の月、えらい細かったですよ」

既読がつくまで五分かかる。

芽依「見てない。部活の譜面写しでそれどころじゃなかった」

莉子「そっかそっか。にしても最近元気ないですよね、なんとなく」

芽依、返信を打っては消す。入力中の表示が三回点滅する。

芽依「気のせい。新学期でバタバタしてるだけ」

莉子「ならいいですけど。困ったらいつでも言ってくださいね、委員長」

芽依、うさぎが頭を下げるスタンプだけ送って画面を閉じる。

00:40深夜
大輝
DMを3回書いて、消した
悠斗
(眠っている)
翔太
漫画を開いたまま、目だけ動く
イヤホンで同じ曲を戻す
(眠っている)
健太
(眠っている)
(眠っている)
天井の染みを数えている
大地
(眠っている)
莉子
(眠っている)
芽依
スマホを伏せて、天井を見る
七海
(眠っている)
美咲
参考書のページで手が止まる
さくら
(眠っている)
陽菜
(眠っている)
結衣
(眠っている)
愛梨
(眠っている)
美羽
(眠っている)

夜の机の中

大輝 → 莉子 (全て削除)
「莉子、ちょっと話したいことあるんだけど、今度時間あるとき」
「話したいこと」で察されると思うと指が止まる。全部消す
「昼休み誰かと一緒だったよな。別によくね、とかじゃなくて」
聞きたいだけなのに問い詰めてる文になってて自分で引く
「部活疲れたわー それだけ」
用もないのに送る意味がわからず、送信前に消す

文字にすると全部違う意味になる気がして、結局スマホを伏せた。

芽依 → 大輝 (全て削除)
「まだ起きてる?今日の合奏、大輝のパート走ってたよ」
注意っぽくて説教くさい。今送る意味がない
「聞きたいことあるんだけど」
意味深すぎる。莉子に勘づかれてる今は特に危ない
「大輝が妹みたいって言ってたやつ、あれ地味に効いてるからね」
愚痴と本音の境目がない。既読つけられて終わり
「べつに、なんでもない」
送る前に自分で笑った。なんでもなくはない

下書きフォルダだけが本当のことを知っている。

日記

「月の話、莉子にしてみたが流された。頭からは離れない。」
— 大地の日記
「寝不足で大地の月の話を適当に流した。坂道でも上の空だったと思う。」
— 莉子の日記
「「声でかいな」に一瞬固まったが、笑って流した。日誌回収は手伝った。」
— さくらの日記
「昇降口でさくらと挨拶。声の大きさの話はそれだけで終わった。」
— 陸の日記
「焼きそばパン、二回断られた。芽依との立ち話も特に何も残らなかった。」
— 翔太の日記
「翔太との立ち話、上の空で終わった。莉子の話にもうさぎのスタンプで返した。」
— 芽依の日記
「昨日の声のこと、言いかけたらさくらに流された。つぶやきも聞き返されずじまい。」
— 悠の日記
「日誌の数を数えた。さくらが手伝ってくれた。それだけの昼休み。」
— 圭の日記
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