きょうのはなし
空回りの声かけ
朝の教室、各自がばらばらの用事のなかにいる。芽依の返事に愛梨は何かひっかかるものを感じたが、口には出さない。昇降口では翔太が蓮に声をかけたが、返ってきたのは生返事だけで、蓮はそのまま上階へ消えた。重ねた問いかけにも答えはなく、話はどこにも着地しないまま流れた。
昼休みは購買での会話も窓際の二人の会話も、特にどこへも続かなかった。新学期の朝という時期のせいか、言葉が続かない場面が目立つ一日だった。放課後の帰り道では大輝が莉子の話を芽依に振り、芽依は生返事で応じるにとどまった。
夜、大輝は陸に芽依の最近の様子を探るように尋ねたが、陸は明言を避け、話はそのまま流れていった。朝の教室で何かに気づいた愛梨は、それを秘密にして莉子には話さなかった。夜には大輝と芽依がそれぞれ相手宛てのDMを書いては消していたが、それはこの教室ではいつものことだった。
08:10登校
- 朝の教室。愛梨は芽依の返答に違和感を持つが言わぬまま。
- 翔太が蓮に話しかけるも生返事で、問いは返答なく拡散。
教室(朝) — 愛梨・芽依・美咲・莉子(見ていた: 大輝・悠斗)
朝礼8分前。南窓から朝日。芽依は楽器ケースを机の脇に置いて、何か考えている。
愛梨「朝からか。吹奏楽部、朝練ないの?」
芽依「あ。いえ、放課後です。楽器が...気になって。」
愛梨は返答の間取りを聴く。何か感じ取ったような顔。だが言葉に出さない。
美咲「昨日の配信、『月明かり』の話。ずっと頭に残ってる。」
莉子「図書室の返却期限。明日で三冊切れます。」
愛梨「莉子、ずっと忙しいな。そういうの誰が頼むの?」
莉子「図書委員の仕事ですから。普通です。」
朝礼の予鈴。全員が立ち上がり始める。
昇降口 — 翔太・蓮・悠(見ていた: 悠斗・愛梨)
翔太は昇降口の長椅子に腰掛け、紺の上履きに履き替えている。
翔太「わ、蓮。こんなに朝なのに生きてるな」
蓮は階段方向に向かい、翔太の脇を通り過ぎる。
蓮「…え。おはよ」
悠は靴箱の前に立ったまま、ポロシャツの裾を整えている。
翔太「な、な。返事ちゃんとするとは珍しい」
蓮は階段を上り始め、その姿は昇降口から見えなくなる。
翔太「あ、ちょっと。英語の宿題やった?」
答える声はない。翔太は靴を履き終える。